園芸講座❿

タネの発芽適温について

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はじめに

「タネをまいたが発芽しない!?」という経験は家庭菜園を始めた当初、よくあることかも知れません。タネは適した環境でないと正常に発芽しませんし、またその後も正常な生育をすることはありません。今回は、植物の生育環境の中でも特に温度について取り上げ、タネの発芽に適した温度について解説したいと思います。

トウモロコシ・オクラの発芽適温

トウモロコシやオクラは、温度が低いと発芽しない代表的野菜です。それでもいち早く食べたい気持ちから、まだ十分暖かくならないうちからタネをまいてしまいがちですが、温度が不足する時期のタネまきがどうなるかを実験的に示してみましょう。環境制御が可能な施設で一日を半分ずつ、電照のついている昼間と、消している夜間に分け、トウモロコシやオクラにとっての発芽適温(昼30℃~夜25℃)の部屋と、発芽適温よりやや低めの温度(昼25℃~夜20℃)の部屋、発芽適温よりかなり低めの温度(昼20℃~夜15℃)の部屋で、それぞれタネをまいて育苗してみました。なお、環境制御の施設は、室内全体の気温が設定温度になっていますので、タネをまいた育苗トレーの土の温度も設定温度になっています。

タネまき後7日目(上半分がトウモロコシ。下半分がオクラ)

左;発芽適温区 
(昼30℃~夜25℃)
中;発芽適温よりやや低めの温度区
(昼25℃~夜20℃)
右;発芽適温よりかなり低めの温度区
(昼20℃~夜15℃)


タネまき後10日目(上半分がトウモロコシ。下半分がオクラ)

左;発芽適温区
 (昼30℃~夜25℃)
中;発芽適温よりやや低めの温度区
 (昼25℃~夜20℃)
右;発芽適温よりかなり低めの温度区
 (昼20℃~夜15℃)

ご覧のように、適温区ではタネをまいてからすでに7日目で、トウモロコシもオクラもほとんどが発芽してきました。やや低めの温度区ではタネまきから10日目でいずれも9割近くが芽を出しましたが、しっかりとした発芽と言える様子ではありません。一方かなり低めの温度区では10日でわずかにトウモロコシが動き出したところで、オクラは全く発芽していません。発芽に時間がかかると、その間に病原菌に侵される危険性もあります。トウモロコシもオクラも発芽適温は25~30℃です。気温が十分でない時期はマルチを張って、また必要に応じてビニールトンネルを張ってタネをまく必要があることがわかっていただけるかと思います。

なお、今回は実験的にわかりやすくするために育苗用のセルトレーを使いましたが、トウモロコシの場合、タネは畑に直接まくのが一般的です。それでも最近は苗を暖かい場所で育てて畑に植える人もいます。その際注意してほしいのは、なるべく若苗を植えつけてください。大きくなりすぎると植えつけても活着不良で初期生育が十分でなく、結局大きな実が収穫できない可能性があります。

レタスの発芽適温

サニーレタスを使って環境制御型の育苗施設で実験してみました。一日を半分ずつ、電照のついている昼間と、消している夜間に分け、発芽適温区(昼25℃~夜20℃)、発芽適温よりやや高めの温度区(昼30℃~夜22℃)、発芽適温よりかなり高めの温度区(昼35℃~夜25℃)の3部屋にタネをまいた育苗トレーを入れ、温度以外はすべて同じ条件で管理しました。

タネまき後10日目

左;発芽適温区
  (昼25℃~夜20℃)
中;発芽適温よりやや高めの温度区
  (昼30℃~夜22℃)
右;発芽適温よりかなり高めの温度区
  (昼35℃~夜25℃)

適温区(昼25℃~夜20℃)はほぼ100%発芽したのに対して、やや高めの温度区(昼30℃~夜22℃)ではまばらな発芽で、きれいに発芽したのは半分以下でした。更に、かなり高めの温度区(昼35℃~夜25℃)では全く発芽しませんでした。この温度区は、まさに日中は猛暑日で夜も熱帯夜という環境です。このような日が続くような場合、レタスは全く発芽しません。

ホウレンソウの発芽適温

最後にホウレンソウもまた環境制御型の育苗施設で実験してみました。レタス同様、一日を半分ずつ、電照のついている昼間と、消している夜間に分け、発芽適温区(昼25℃~夜20℃)、発芽適温よりやや高めの温度区(昼30℃~夜22℃)、発芽適温よりかなり高めの温度区(昼35℃~夜25℃)の3部屋にタネをまいた育苗トレーを入れ、温度以外はすべて同じ条件で管理しました。

ちなみに写真の上2列は比較のためにタネをまいた小松菜です。小松菜はいずれの温度区でも正常に発芽しています。

タネまき後10日目(上2列は小松菜。下4列がホウレンソウ)

左;発芽適温区
 (昼25℃~夜20℃)
中;発芽適温よりやや高めの温度区
 (昼30℃~夜22℃)
右;発芽適温よりかなり高めの温度区
 (昼35℃~夜25℃)

ホウレンソウは温度区によって発芽に差がありました。発芽適温区(昼25℃~夜20℃)はほぼ100%発芽したのに対して、やや高めの温度区(昼30℃~夜22℃)では若干発芽に遅れはありましたが何とかすべて発芽しました。しかし、かなり高めの温度区(昼35℃~夜25℃)ではまばらな発芽で最終的には半分も発芽しませんでした。レタス同様、日中は猛暑日で夜も熱帯夜という環境ではホウレンソウの正常な発芽は期待できません。

おわりに

発芽適温はタネをまいた菜園の地面の温度、またはポットにタネをまいた場合はポットの土の温度です。タネをまく時は温度計をさして測定し、適温を越えてないかどうか確認することをおすすめします。タネの商品パッケージの裏には、必ず発芽適温と生育適温が書かれています。ぜひ参考にして家庭菜園をお楽しみください。またタネの発芽には温度だけでなく他にも影響を及ぼす要因はあります。それについては改めてご紹介したいと思います。

ところで発芽に関して、トーホクの商品パッケージを使って名古屋市にある金城学院中学校の入学試験問題(2023年度;理科)があります。許可を得て掲載しますので、ぜひ挑戦してみてください!