病気に強い品種育成

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はじめに

家庭菜園で野菜を栽培するとき、最も気をつかうのは病気や害虫対策です。
とくに夏の露地野菜は湿度の高い環境で育つので、さまざまな糸状菌や細菌性の病気が発生しやすくなります。また、アブラムシの発生によってウイルス病にも感染します。
トーホクでは、このような環境でも健全で旺盛に生育する品種育成を目指して研究開発を行い、病気に強い品種をいくつも育成してきました。
今回は、ウリ科野菜に共通するうどんこ病やウイルス病について、キュウリを例にその育成の舞台裏を紹介します。

品種育成までの流れ

キュウリの耐病性育種は以下のような流れで行われています。

それではステップごとに説明していきます。

① 病原菌の精製

うどんこ病は、葉の表面に白いうどん粉をまぶしたように見えるカビの生える病気で、通常原因となる菌は土や落ち葉などに潜んでおり、多くの植物を発病させます。この白いカビの生えた部分は光合成が充分行えませんから植物体は徐々に弱り、また放っておくとどんどん増え、まわりに感染して被害が拡大します。
病理担当者は、ちょうどそのひどい状態で発病している菌をかき集めて精製します。なおウイルス病も手法は異なりますが病原菌を精製します。

うどんこ病の発病株。ここから病原菌をかき集めます。

なお耐病性の品種育成では、このように植物病原菌を取り扱うことから非常に高度な技術が求められます。
隔離された施設内で育てた植物を使って発病させ、検定が終われば病気に罹った植物は速やかに処分されます。トーホクでは最先端の研究施設を整え、植物病理学の教育を受けた研究者が作物担当者と共に開発に当たっています。

また耐病性研究施設全体が立ち入り制限区域になっているだけでなく、上の写真の一番右の施設は病原菌などが外部に漏れない閉鎖系温室となっています。

② 強制接種

育種素材として畑に植えつける予定数の約10~20倍の苗に対して、本葉が展開する頃に精製した病原菌を病理担当者がぬっていきます。その後、殺菌剤などの農薬は散布せず、育苗を続けます。

ウイルス病の病原菌をていねいに、一株一株をぬっていきます。

この時一番気をつけなくてはならないのは、環境条件に差がないことです。均等に接種することはもとより、育苗環境に公平さがないと選抜の意味はなくなってしまいます。そのために、細心の注意を払って育苗環境を制御します。

③ 定植前の耐病性株の選抜

強制接種から定植までの間に病気に弱い株はどんどん発病します。この中から発病が見られない株を選び、畑に植えます。この段階で最初の数から約10%に絞り込まれていきます。

④ 定植後も自然発病を観察

畑に植えつけてからも、育苗中には見落としていた病気に弱い株がないか確認します。

その後、自然に発病してくるその他の病気を観察して選抜します。
主にキュウリの場合は、べと病、褐斑病など、いくつかの病気について発病していないかを観察します。

左は抵抗力がなく病気が発生している株。右はその中でも強い株の症状。

⑤ 味や収量性などを調査

同時にキュウリの果実の味や収量性、つるの伸びなど、いくつかの項目についても調査します。

左は抵抗力がないので秀品果実が少ない株。右は病気に強い株の果実で順調に生育しています。

⑥ 優秀品種の選抜・採種

最終的にすべての項目で優れている株を選びます。タネをまいた数からみると1%にも満たない株数になることもしばしばあります。
そして、このようにして選んだ株から採種したタネを用いて、次年度も同様に強制接種し、同様に畑でキュウリとしての特性を評価して選抜を繰り返していくのです。

⑦ 商品化

この接種検定を約10回、つまり10年以上続けることで、安定的に病気に強くキュウリとしてのおいしさや収量性などが備わっている優秀な品種を選び出すことができます。
その後、さまざまな環境下で試験栽培を行い、品種としての栽培特性などが確かめられ、ようやく品種となります。

左:耐病性がない他社市販品種。右:完成した「うどんこ病に強いおいしさ一番星キュウリ」

おわりに

キュウリは、うどんこ病やウイルス病だけでなく、べと病、褐斑病などいくつもの病気に対して複合的に強くないと品種としては意味がありません。
病理担当者の精度の高い接種検定と、キュウリを熟知しその栽培技術に習熟した作物担当者の息の合ったチームワークが複雑な育成プログラムの遂行には欠かせません。
当然のことながら「おいしさ一番星」は、うどんこ病だけでなく、ウイルス病(CMV・ZYMV・PRSV)やべと病、褐斑病にも強く、そのためつる持ちの良さが抜群です。しっかりとした風味のある果実を、生育後半まで長く楽しむことができます。
「おいしさ一番星」はトーホクオリジナルの耐病性品種です。