
第9回 とり損ねた野菜、どうしてる?
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9月も暑さが続きますが、夕方には秋風が吹き、畑でコオロギも鳴き始めました。農園では夏野菜の片付けが急ピッチ。夏の終わりはいつも、わが家の冷蔵庫は夏の置き土産でいっぱいです。冷凍室にはトマトがギチギチ、冷蔵室は甘長トウガラシの醤油漬けの瓶が占領。台所の隅の籠には山盛りになったカボチャがスープにされる寒い季節を待っています。
夏は食べきれないほど野菜がとれます。果菜類の大群に追われるように収穫が続き、週末だけの畑通いでは到底追いつかず、何度も群れにのみこまれてあっぷあっぷ。そんな状況も楽しんで、籠いっぱいの野菜を持ち帰る日々です。
トマトやピーマン類は、実らせたままでも多少は待ってくれますが、「早くして、早くして!」と菜園家を追い立てる野菜もありますよね。その代表といえばアレ。この夏もこんなことがありました。
「金田さ~ん、キュウリ作ってる?」
畑仲間がこう切り出したら、何の話か決まっています。
「作ってるよ。いりませーん」
「頼むよ~もらってよ~。こんなに持ち帰ったら、奥さんに叱られちゃう!」
おじさまの両手には山盛りのキュウリ。それもスーパーで売っているようなかわいいサイズではありません。数日畑に来なかっただけで、こんなことになっちゃったと嘆くのです。叱られるおじさまより、これを持ち帰られた奥さんに同情し、「しょうがないなぁ」と5本引き受けたのです。
私も菜園家になって数年はキュウリ地獄にもがきました。張り切って何株も植え、子づるを生やしまくったせいで、一度に大量に、しかも巨大化した実ばかり収穫するはめになったものです。家のご近所さんにたびたびおすそわけしましたが、毎回笑顔で受け取ってはくれるものの、(またキュウリ?メロンはないの?)と思われていたに違いありません。さすがにこりて株数を減らし、ツルおろし栽培で、一度にたくさん実らないようにしています。おかげで5本くらいならキュウリをもらえるというわけです。

さらにやっかいなのはズッキーニです。キュウリ地獄におちた人は救っても、ズッキーニを抱えた畑仲間が近づいてきたら、目を合わせないようにしています。
「金田さ~ん、ズッキーニ育ててる?」
ほら来た。
「育ててるよ。ほらそこ見て」
「いくつかもらってよ~」
両手に抱えているのは、世間ではヘチマと思われそうなサイズです。(菜園家をしていると、ズッキーニと聞いてイメージするサイズ感が、世間とずれませんか?)
「いらない、いらない!」
それでも相手はあきらめません。
「頼むよ~。もらってよ~」
買ってくれるまで玄関に居座る昭和の押し売りみたいです。
「も~! じゃあ1本だけだよ。小さいやつね」
と手を出すと、そこに2本のせられてしまうのです。しかも大きめのやつを。その人が帰って別の菜園家が農園にくると、私は泣きつきます。
「〇〇さんからもらったズッキーニ、食べきれないから1本もらって!」
まるでババ抜きのジョーカーです。

巨大ズッキーニは、うちの畑でもよくできます。暑さや仕事で畑に行けない日が続けば、しかたのないこと。見つけたらすぐにとって、ラグビーのパスさながら、夫に向かって放り投げます。
「これいらないよ」
なんのためらいもありません。ところが夫は必ず顔をくもらせます。
「捨てちゃうの? まだ食べられるんじゃない?」
かたく筋張ったオクラはあきらめがついても、巨大化したウリならまだいけると思うらしいのです。
「そんなにでっかく育ったら、ズッキーニじゃなくてカボチャでしょ」
「料理してくれれば食べるから」
そう言われても、夏野菜のラタトゥイユに使うのは「ズッキーニ1本」で、「どでかズッキーニ(ほぼカボチャ)1本」ではないのです。料理も楽しくないし、できたラタトゥイユは数日食べ続けることになるでしょう。その間、ともにとれた食べ頃ズッキーニは冷蔵庫にしまわれ、鮮度が落ちていくというのに……。
「だったら自分で料理したら?」
こう言うと夫は黙りこみ、巨大ズッキーニを抱いて畑の隅に向かいます。「僕のせいじゃないよ。奥さんが君を葬ると決めたんだ」などと心の中で言っているに違いありません。
「もったいなくなんてないよ! ほかの野菜を育てる栄養になるんだからね!」
幸いうちの畑には、夫がDIYで作ったコンポスターがあります。蓋をあけて上から有機物を入れれば、やがて分解され、下から栄養たっぷりの土を取り出せるというしくみ。育ちすぎたズッキーニは、ミミズや微生物たちが喜んで食べてくれるので、私としては、食べ物を処分しているというより、土壌生物にエサをやっている感覚です。

そんな私も、かつては野菜の処分に抵抗がありました。とれたものは食べるか、人にあげるかして、余ったら食べ切れないほどの保存食を作り、すべて消費しようと必死だったものです。食べられないほどに野菜を成長させてしまったのは、収穫に行けなかった自分のせいだとおのれを責めたりもしていました。
楽しいはずの菜園生活が、これでは苦行です。野菜が豊作だと苦しいなんて本末転倒。このままだと畑をやめたくなっちゃうかもしれません。そんなことになりたくないので、今ではすっかり自分を甘やかし、こう割り切っています。
・食べ時を逃したものは迷わず処分!
・保存食作りは、時間と心にゆとりのあるときだけ。
・収穫に行かなくちゃとつらければ、それもサボってよし。
畑通いをサボった結果、コンポスター行きになるズッキーニも増えてしまうのですが、おかげで気持ちは楽になり、野菜の群れにのまれても夏を楽しめています。
さあ、これからは秋冬野菜のシーズン。ブロッコリーもカリフラワーもレタスも、育てる数ができる数です。成長もゆっくりですから、収穫を急かされることもありません。カブやダイコンを何品種も育て、保存食作りをするのが今から楽しみ。静かにゆったりと秋の菜園を満喫します。
(2025年9月1日。隔月で連載しています。次回は11月1日に第10回を掲載します)

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