ハクサイなどのタネ

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固定種と交配種

野菜の品種には固定種(または一般種とも言います)と交配種との区分がありますが、まずはこの違いから説明します。

雑然とした集団から優れた株を選んでタネをとることを何年か繰り返して行うと、形や見た目、生育熟期までも非常に揃った系統となりますが、近親度合が高まると株の勢いがなくなるといったマイナスも出てきます。そこで株の勢いが落ちないように、ある程度、雑然とさせた状態で品種として利用します。これを固定種と呼びます。

一方、近親度合をさらに高めた親系統同士を交配してかけあわせたものを雑種第一代=F1(エフワン)と呼びます。

F1は雑種強勢、ヘテローシスがあらわれ、株の勢いだけでなく株の生育揃いも固定種以上となります。野菜では古くからこの原理を応用したF1品種=交配種が開発されてきました。力強い生育性と揃いの良さから、市場出荷の栽培農家さんだけでなく家庭菜園でも非常によろこばれ、多くの野菜で交配種が育成されてきました。

ではどのようにして交配種のタネは生産されているのでしょうか。今回はハクサイやカブ、ツケナなどの野菜について説明します。

交配種のタネとりの方法

ハクサイやカブ、コマツナ、チンゲンサイなどの野菜はアブラナ科に属しており、これらは自家不和合性という性質を持っています。

自家不和合性とは、機能的には正常であるにも関わらず、自分の花粉が自分の雌しべついてもタネができない性質です。この性質は近親同士での交配を防ぐ植物の自己防衛のしくみと考えられていますが、種苗会社はこのしくみをうまく利用してF1種子を生産します。

自家不和合性には、ヒトの血液型にA型、B型、O型などの種類があるように、いくつもの遺伝子がわかっています。自家不和合性の同じ遺伝子を持っているもの同士では花粉が受粉されてもタネができませんが、違う遺伝子を持っている株から受粉されればタネになります。

つまり違う遺伝子を持った親系統を並べて植えれば、その畑で採種されたタネはすべてF1のタネになるという理屈です。

採種現場の実際

交配種の場合、青果物としての特性に加えて採種特性に関しても綿密な計画を立てて品種づくりを始めます。そして最終的に交配したF1が優秀な品種となることが確認されたら、選ばれた2つの親系統を準備された畑に並べて植えつけます。

コマツナの採種

チンゲンサイの採種

ハクサイの採種
(いずれの写真も、2列ごとに異なる2種類の親系統が交互に植わっていることがわかるでしょうか)

この時注意しなくてはならないことは、花の開花期間を春の穏やかな季節に持ってくること。まだ寒いうちに咲き出そうとすると株が傷んで枯れてしまったり、逆に遅すぎると暑くなったり雨の時期になったりと、質の良いタネを実らせることがむずかしくなります。

そしてもう一つ重要なことは、2つの親系統の花の咲く時期を一致させることです。植えつける時期をずらしたり、どちらかの親系統が早く咲きそうなら、蕾の先を刈り込んで剪定したりして花の咲く時期をコントロールします。

開花盛りの状態

両親系統の花が穏やかな時期に咲いたとしても、さらに注意するポイントがあります。それは、花粉を交互に受粉させるためにミツバチによく働いてもらうこと。気温が低いとミツバチは巣箱から出てきませんし、また両親系統がそれぞれ列状に植わっていると、頭のいいミツバチはムダなく移動しようとします。そうすると、列の間での(両親系統間での)受粉が少なくなってしまいます。ミツバチによく働いてもらうために、植えつけ時期やミツバチの巣箱の位置など、 状況によって様々な工夫をするわけです。

タネの生産に適した場所はどこ?

より良いタネの育成を考えると、それぞれの野菜に適した生産地を探し出すことがとても大事な仕事になっています。

ハクサイやカブ、コマツナ、チンゲンサイなどの菜類については、冬の寒さがさほど厳しくなく、春は温暖で雨が少ない場所が適しています。それから、同じように採種をする畑がまわりにないことや、菜の花を楽しむ民家が近くになく、“隔離”できることが重要な基準になります。

近年、このような基準を満たす場所を国内で探すことはむずかしくなっています。植物の性質を考えると、海外のほうが豊富に存在するのです。

交配種の種子生産は、固定種に比べて格段にむずかしい技術が要求されますが、交配種の優れた特性をお届けするためには避けては通れません。育種農場での研究開発もさることながら、安定供給に向けた野外での採種技術の向上とノウハウの蓄積が、優れた交配種の育成には不可欠なのです。