直売所ならではの商品展開

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最近の直売所

近年、野菜の直売所が全国的に広がっています。個人が良心市的に道路際に開いているものから、JAなどが経営する専門店、また道の駅などの大型施設に併設されているものまで様々あります。近隣の生産者が収穫してすぐに持ち込んだ野菜ですから新鮮ですし、値札には生産者の名前まで入っていますから信頼関係からリピート率も高いと言われています。

特に市場出荷に際して必要な出荷規格を揃えたりする必要はなく、梱包資材や輸送などに係る費用を省けることから価格も低く設定でき、生産者・消費者共にメリットがあります。

しかし最近はこのような直売所も、近隣のスーパーとの競争では価格・新鮮さのほかにプラスアルファとしての差別化が求められているそうです。このような状況の中、出荷生産者の技術力と機動力を駆使してスーパーにはない品揃えをと考えている直売所があります。

今回はそのような中、トーホクの新品種を使って興味深い取り組みをされている直売所の様子を紹介したいと思います。

直売所ならではの商材とは?

場所は神奈川県秦野市にあるJAはだのファーマーズマーケット「はだのじばさんず」です。店長の北原さんが、トーホク営業部の社員との商談の際に弊社の新品種に興味を持っていただいたことがきっかけでした。

トーホクで扱う野菜品種は、家庭菜園で楽しめるように育成されています。つまりプロの生産者さんがいくつもの資材や高価な農薬を使いこなして栽培しなくても比較的容易に収穫まで楽しめるようになっています。

多くの直売出荷の生産者が比較的小規模ですから、なるべく資材などにお金をかけずに、また農薬などにもできるだけ頼らない代わりに手間を惜しまず管理する栽培には適しています。

また何より畑で採れたてを食べて喜んでもらえるように育成されたものが多いので、出荷場から中央市場、中央市場からスーパーなどの売り場までの長い輸送に耐える特性や、その後の売り場での棚もち特性も付与されていません。

しかし逆にこの点も直売所なら畑と売り場が近いことからアピールできるのではないか、そしてそのような品目を直売所の目玉にすることで、近隣の量販店との差別化がはかれるのではないかという事で始まったわけです。

JAはだのファーマーズマーケット「はだのじばさんず」のある秦野市は、丹沢山地の麓に広がる自然豊かな地域。日本の名水百選に選ばれた「秦野名水」でも知られる。また県内生産量1位の秦野産の掘り立て落花生を殻ごと茹であげ、瞬時に冷凍した「うでピー」は人気の商品。

今回取り組んだ3新品種

トーホクが提案した新商品は、「とろとろステーキなす」、「よくなるカボチャぐるめペコ」、「シャリっ娘スイカ」の3品種です。まずはそれぞれの品種特性を紹介しましょう。

まずは「とろとろステーキなす」。これは果実が500gにもなる大型のナスです。

タネ袋の写真にあるように、左側の通常の長卵形のナスは、長さ約12cm、重さが100~120gですが、右側の「とろとろステーキなす」は長さが約25cm、太さが約12cm、それで果実の重さが500g以上になります。

ふつう大きな果実のナスと言えばヘタが緑色の米ナスが知られていますが、この「とろとろステーキなす」は米ナスのようなしっかりとした肉質のナスとは全く異なります。どちらかというと肉質は水ナスに近く、きめが細かくやわらかい肉質です。

特に加熱すると果肉がトロットロになって絶妙な食感となり、旨味が凝縮されて極めて濃厚な味わいとなります。

普通これくらいの大きさまでになると皮も厚くタネも発達して邪魔に感じるものですが、そのように感じることは全くありません。厚切にしてステーキとして楽しんでもらえると思いますし、この果実の大きさを活かした様々な調理が提案されています。

当然生でも食べることができます。アクが少ないので漬け物やマリネでも好評です。

次は「ぐるめペコ」。これはズッキーニに似たやわらかい果実を収穫して利用する野菜です。やさしい淡い緑色の果実で光沢があります。

ズッキーニと同様に花が咲いてから5~6日後の若い20cmほどの果実を収穫します。違うのは普通のカボチャのようにつるが伸びて節々に果実が成ることです。

若い果実をどんどん収穫しますから株は疲れません。つるが伸びている限り収穫できます。ズッキーニの数倍の本数が収穫できます。またウイルス病やうどんこ病などに比較的強いので農薬散布も少なくてよく、作りやすい野菜です。

食べ方はズッキーニと同じように炒めたりして食べますが、食感はトロッとした感じで甘みがあり、ズッキーニより味があって存在感があります。炒め物など様々に利用できます。牛肉との相性も良く、一般的な炒め物で楽しめます。

ゴマ油で風味を付けた白出汁浸しも好評です。

最後は「シャリっ娘スイカ」。これはラグビーボール型の小玉スイカです。

小玉スイカは直売所に限らず最近人気の高いアイテムですが、栽培の後半、特に収穫間際によく割れると言われています。この点がなかなか栽培の難しい所なのですが、今回発表した「シャリっ娘スイカ」は作りやすく割れない小玉スイカを目標に育成されました。

下の動画は、シャリっ娘スイカ(左)を従来のラグビーボール型小玉スイカ(右)と比較した落下試験の様子です。

食味の点では夏場にでてくる大玉スイカのカットものに対抗できるように大玉スイカのようなシャリ感を持たせてあります。甘さだけでなく爽快な食べ応えが味わえます。ラグビーボール型は横にして冷蔵庫に入る便利な形ですし、売り場でも目印になると思います。一度食べた方のリピートにも役立つ果形です。

トーホクからの情報提供

トーホクとしては品種の特性や栽培方法、調理例などの情報を生産者に提供するということで、栽培資料などを配布して栽培特性を把握してもらいました。また青果物サンプルを実際に見てもらい収穫適期のサイズやアピールできる食味などを生産者の方々に直接確認してもらい、更に消費者のお客様に調理法を知ってもらうためのレシピ資料なども提供しました。

ところでこのような取り組みを同様に進めたいと考えていた近隣の直売所にも話を持って行ったところ、大いに興味を示されたことから、「はだのじばさんず」の近くの小田原市にあるJAかながわ西湘農産物直売所「朝ドレファーミ成田店」の店長鈴木さん、寒川町のJAさがみファーマーズマーケット「わいわい市寒川店」の店長麻生さんとも話を進め、同様な取り組みを始めることになりました。

JAかながわ西湘農産物直売所「朝ドレファーミ成田店」。小田原市内にあって朝どりの新鮮な農産物がファーマーズとファミリーをつなぐ架け橋にと命名されたファーマーズマーケット。

JAさがみファーマーズマーケット「わいわい市寒川店」は、寒川町の役場や総合体育館などがある町の中心部にあります。寒川町は神奈川県の中央部を南北に流れる相模川の左岸にあり、いわゆる湘南地区の一角。ちなみに日本で唯一の八方除けの守護神で知られる寒川神社はすぐ近く。

栽培の様子

このような準備段階を経て、栽培がスタートしました。それでは栽培と出荷の状況について紹介します。

JAはだのでは、「はだのじばさんず」店長の北原さんが直々に生産者の畑を巡回されました。技術的には、JAはだの営農部のTAC・営農指導員の毛利さん、山崎さんが、またJAかながわ西湘では営農部の技術指導TACの露木さんが栽培指導にあたっていただきました。なおJAさがみは「わいわい市寒川店」店長の麻生さん自身が営農指導員ということで、生産者の皆さんには適時助言していただきました。

現場で実際に果実の重さを調べて出荷規格を検討する北原店長

JAかながわ西湘の露木指導員(中央)による「とろとろステーキなす」の生育調査

ぐるめペコの畑で生育調査中の毛利指導員(右)と山崎指導員(中央)。左は北原店長。

ぐるめペコは、当初生産者に収穫適期をうまく伝えきれず、生育前半は株に負担をかけることになりましたが、その後は様子も分かり順調に収穫出荷されました。

ネットを使ってキュウリの様に立栽培された生産者は、収穫期の果実の見落としもなく、作りやすかったとの感想。

右手奥のカボチャは収穫期後半でうどんこ病などが発生していますが、ぐるめペコには病気は伝染せず、結局最後まで農薬を使う必要はほとんどなかったとのことでした。

スイカの畑を確認中。トンネルを使ってていねいに栽培されており、着果も始まってひとまず安心。

販売の様子

販売面でも様々な工夫がされました。特にとろとろステーキなすに関しては、見慣れないサイズですから、お客さんもどんな特長の品種かわかりません。

店内ではこのように特長をポップにしていただき、コーナーまで作って区別してもらったおかげで、通常のナスよりもかなり高い価格設定でもお客さんに買っていただくことができ、北原店長によると少なからぬリピーターも確認されたとのこと。

「ぐるめペコ」については、はだのじばさんずでは“つるありズッキーニ”とし紹介してもらいました。ズッキーニの出荷が途切れる夏場にも続けて出荷でき、販売する側も貴重なアイテムとして認めていただけました。

ズッキーニのコーナーに置かれたぐるめペコ。

7月下旬に出荷されたシャリっ娘スイカ。

今回は品種名を出すところまではいきませんでしたが、朝ドレファーミの鈴木店長には、たいへん美味しいスイカだったとの高評価を頂きました。

テレビでの紹介

今回の取り組みは神奈川県の地元放送、テレビ神奈川(tvk)のかながわ旬菜ナビという番組で「はだので発見!新野菜」として放送されました(2020年9月20日9:00~9:30)。

テレビ取材の様子をちょっとご覧いただきましょう。

「ぐるめペコ」は、ネットを使って立栽培をされた原卓司さんの圃場が撮影に使われました。

収穫体験のカットを撮影した旬菜キャッチャーの“はるるん“こと濱村春香さんと原さんのツーショット。

「とろとろステーキなす」は秦野いとう農園も経営されている伊藤隆弘さんの圃場で撮影。伊藤さんは来園者に珍しい野菜も収穫体験してもらうことも考え、今回作付されました。JGAP、ASIAJAPも取得して質の高い農業を目指しておられ、栽培に関しても様々な工夫があり、弊社としても大変勉強になりました。

はだのじばさんず店頭で北原店長(左)と旬菜キャッチャー”はるるん”(中央)との掛け合いで品種紹介部分を撮影したトーホク営業部の社員(右)。

スイカの出荷が終わってしまっており、実物を使っての紹介は「ぐるめペコ」、「とろとろステーキなす」の紹介となってしまったのは残念でしたが、「シャリっ娘スイカ」もしっかりアピールさせてもらいました。

番組後半では、「ぐるめペコ」「とろとろステーキなす」を使ってJAはだの女性部の方々が工夫して作られた調理例が紹介されました。レシピ詳細はテレビ神奈川公式サイトのレシピコーナー2020年9月20日の欄をご覧ください。

これからの直売所

直売所を利用する人は今後も増えていくでしょうし、まだまだ新たな出店もあると思われます。しかしスーパーなど一般店との差別化を考えた場合、今後は直売所でしか手に入らない品物、直売所の品物でしか味わえない風味などを求めることになっていくのでしょう。

既成の野菜生産・流通の考え方とは異なりますが、地元の生産者との深いつながりを活かして今後まだまだ新しい取り組みが始まる予感がします。安全安心でおいしい野菜にこだわる生産者と、地元で収穫された野菜を中心に地域との関係を大切にする直売所スタッフの皆さんの熱い挑戦に、私たち種苗メーカーとしてお役に立てることはまだまだありそうです。