アロマレッドニンジンについて
はじめに
トーホク清原育種農場では様々な目標を立てて品種改良を進めていますが、ことニンジンに関しては煮物や炒め物の他にサラダやジュース・スムージーといった食の多様化に対応する形で『色が鮮やかで、やわらかく、食味の良い高品質なニンジン』を目指した育成課題がありました。当然、肥大性に優れて病気にも強く作りやすい特性を持っている必要もありますから、なかなか食味と栽培特性を兼ね合わせた品種を育成するのは至難の業なのですが、約10年の歳月をかけてアロマレッドニンジンは完成しました。今ではアロマレッドは、たいへんおいしいニンジンとして好評をいただいております。今回はそのおいしさの秘密や好評の現状についてご紹介したいと思います。
育成経過
通常試作品種は発売前に何カ所かで試験栽培してみるのですが、数年にわたる試験栽培の段階で既に「おいしい」という声を多くいただきました。ただ当時はこのおいしさの正体について全く分かりませんでした。その頃、当社は文部科学省「私立大学学術研究高度化推進事業 産学連携研究推進事業」の第2期に共同研究企業として、東洋大学 植物機能研究センターのプロジェクトに参画しておりました。センター長の下村講一郎教授に食味をお願いしたところ、味もさることながら香りが通常のニンジンと異なるとのご指摘を受けました。咀嚼していると甘さと共にフルーティさが増してきたので、香り成分についてガスクロマト質量分析を行い、通常のニンジン臭の成分とは異なるパターンを示すことが判明しました。また、従来のニンジン品種には珍しいフルーツの香りとして知られているベータダマセノン(β-damascenone)が検出され、この成分が多く含まれていることが香り豊かで食味が優れている要因だとわかりました。ちなみにこの成分は香水の原料となる「ブルガリアン・ローズ」の香り成分の一つです。
ニンジンとしての甘みを、このフルーツのような香りが引き立てることに加えて、肉質のやわらかさと根の芯まで鮮やかな鮮紅色が目を引くことがお客様に、特にニンジン嫌いな方々に受け入れられた要因だと思われます。特に子供さんが、このようなニンジンなら食べられるからと言って、わざわざお孫さん用に栽培しておられる人もたくさんいる状況です。
青果物特性
香りが特徴的ですが、基本的に食味が良いため様々な調理に使えると好評です。また煮物では火が通りやすくやわらかく仕上がると好評です。ただ何と言ってもニンジン臭がしないことからサラダなど生での利用が一番で、他の品種では味わえない風味があると評判が広がっており、リピーターの獲得につながっています。そのためスーパーなどでは「アロマレッド」と品種名を出荷袋やポップにつけて陳列しているお店も現れています。
その他に生での利用ではジュース・スムージーでの利用もおすすめで、アロマレッドを使ったジュースも大手飲料メーカーで開発されて広く販売されています。
さらにアロマレッドに惚れ込んでキャロットケーキに使ってくださっているパティシエがいらっしゃいます。この方はアロマレッドではニンジン臭のことを全く気にしなくて良いのでフルーツ感覚で使え、それでいて野菜としてのしっかりとした甘みが引き出せるとお話くださいました。
おすすめ栽培時期
夏まきではタネまき後105~110日で、約15~18cmの長さで収穫できます。夏まきだけでなく、とう立ちも遅いので春まきもできます。春の早まきの際はマルチやビニールトンネルを使った栽培が必要です。
栽培のポイント
肥料が多すぎると根の表面の皮目が隆起し、肌が荒れたようなニンジンとなることがあります。草勢がおとなしめの品種ですが、無理に葉を作るような多肥栽培を避けた方が品質の良いニンジンが収穫できます。特に収穫期が高温となる春まき栽培では肥料が利きやすくなるため、夏まきの8割くらいに元肥を減らし、それでも草勢が強いようであれば追肥を行う必要はありません。
おすすめ調理方法
①ラぺ
シャキッとした食感と濃い甘さが楽しめます。
②コンソメ煮
クセも無く深い味わいはお酒にもピッタリ
③ジャム
栄養たっぷりの健康的なジャム!
④サラダ
間引き菜のサラダも紹介させてください。アロマレッドは葉も特徴的な香りがします。ぜひお試しください。
おわりに
科学的にもそのおいしさが解明されてきたアロマレッドニンジン。特にニンジンが苦手な子供たちのためにも、ぜひ栽培して食べさせていただきたいと思います。
(アロマレッドニンジンは東洋大学下村講一郎名誉教授との共同開発品種です)